特別支援学校の先生直伝!100円商品を使ったIT支援アイディア集
特別支援学校の先生による100円商品を使用した障がい者のIT支援のアイディア集です。
佐賀県の特別支援学校の現役教諭であり、AT(支援技術)やICT(情報通信技術)利活用を行っている松永泰臣さんに寄稿していただきました。
手軽に入手できる100円商品でも、ちょっとした工夫や発想の転換で、障がい者のIT機器利活用に役立てることができます。
メリットとデメリットを理解した上で、活用してみませんか。
はじめに
100円均一ショップの商品(以下、100円商品)といえば、一昔前は粗悪な印象が強かったものですが、現在では「1日の中で100円商品を全く使わないということはほぼ無い」と言えるくらい、商品の質も上がり、生活に浸透したと思われます。
100円均一ショップでしか手に入らない商品もあり、ウェブ上の人気ブログでは、それらの商品を組み合わせた生活の工夫が発信されているのをよく見かけます。
さて、そのような商品を活用した支援具についてご紹介する前に、100円商品を活用するメリットやデメリットについて触れたいと思います。
様々な100円タッチペン
メリットとして挙げられるのは、安価で手に入りやすいということです。店舗数も多く、気軽に購入できます。商品数も多く、タッチペンや固定スタンドなど、タブレット端末やスマートフォン関連の商品も多数取り扱われています。以前は、100円商品のまな板立てやブックスタンドをタブレットスタンドとして応用していましたが、その必要もなくなりました。
一方で、突然、商品が店頭で取り扱われなくなる場合があります。支援具は、必要な人の生活に365日役に立たなければなりません。「今年は手に入らなかったからもうできない」では、ユーザーの生活に影響を与えてしまします。これは大きなデメリットです。また、構造が簡易的で、使用に耐えられなかったり、固定が不安定であったりする商品もあります。
以上を踏まえ、100円商品は、支援具の本格導入前の試用や、現在使っている支援具をさらに使いやするためのものとして活用を考えると良いと思います。
活用例
プラスチック粘土「おゆプラ」
おゆプラを使ったタッチペンの握り 制作例
プラスチック粘土「おゆプラ」とは、80℃以上のお湯につけることで柔らかくなり、成型することができる熱可塑性の商品です。
これを使って既製品のタッチペンの「握り」を作ることができます。成型後も再び熱を加えて再成型ができるので、ユーザーに合わせた調整ができます。
ICT機器以外にも、例えばスプーンの柄の握りも作成できますが、80℃を超える熱を加えて消毒をすると、変形する恐れがあります。以前は、ホームセンターに「自由樹脂」という商品がありましたが、現在では取り扱われなくなったようです。
面ファスナー
「面ファスナー」は、いわゆる“マジックテープ”です。商品によって大きさや形が様々であり、両面テープで貼り付けられるものもあります。
これを私は固定用ベルトの調整に活用しています。
スペックスイッチ
これは「接点式入力装置」と呼ばれるものです。ボタンを押すだけで電化製品のオンオフが切り替えられたり、各種ツールを操作できるようになるので、肢体不自由がある方の支援に有用なツールになります。
画像提供 パシフィックサプライ株式会社
面ファスナーを使用して固定ベルトの長さを試す
この商品には付属の固定用のベルトがありますが、切って長さを調整するようになっているので、一度切り過ぎてしまうと元の長さには戻せません。
そこで私は、配線コードを束ねるためのバンドを転用してみました。一度このようなもので固定を試してみてから、付属ベルトの長さを決めるといいでしょう。
ぐねぐねタッチペン
ぐねぐねタッチペンの材料
これは、複数の100円商品を組み合わせて作ったものです。
材料は以下の物です。
・ソフトワイヤー
・アルミテープ
・ファブリックテープ(布製デコレーションテープ)
・スマホ対応手袋
手指の握り込みがあり、iPadなどの静電容量方式のタッチパネル操作が難しい場合の補助具として使用することができます。
ここでは、詳しい作り方については割愛しますが、私のブログで公開していますので、ぜひご活用ください。
ぐねぐねタッチペン
蛇足ですが、各地の研修会でご紹介した際には、その場で作成して持って帰られる方もたくさんいらっしゃいます。
ただし、外部スイッチやその他の支援機器を利用したり、端末のアクセシビリティ機能の設定を行ったりしたほうが、より操作がしやすくなることがあります。
http://ommyzfactory.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-fc20.html
最後に
最初にも触れましたが、100円商品の活用にはメリットとデメリットがあります。
一見コストパフォーマンスが高いように見えても、長い期間で考えるとそうではない場合もあります。既製品と違い、自作品はアフターサポートも自分(もしくは準備した支援者)で行わなければなりません。
一方で、既製品に比べ、個々に応じた工夫を行いやすい面もあります。100円商品を活用する意義をよく理解した上で、ユーザーの声に耳を傾けながら、必要に応じて取り入れていただければと思います。
執筆者紹介
松永泰臣(マツナガヤスオミ)
佐賀県立中原特別支援学校 教諭
「佐賀県特別支援教育 情報端末・AT(アシスティブテクノロジー)研究会」メンバー。
九州を中心に、AT(支援技術)やICT(情報通信技術)利活用関連の研修会等にも参加し、「屋台」(展示・体験ブース)で教材紹介や体験を行っている。
協力:パシフィックサプライ株式会社
http://www.p-su