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特定非営利活動法人神奈川県障害者自立生活支援センター(KILC)

神奈川県初の当事者団体が開講する障がい者向けパソコン教室「パソコンひろば平塚」

 特定非営利活動法人神奈川県障害者自立生活支援センター(KILC)は、神奈川県初の当事者団体として1997年4月に設立されました。
 同団体は、ピアカウンセリング、情報提供、介助者の養成などを行い、障がい者自身の立場から障がい者の自立生活を総合的に支援しています。
 併せて人権・権利擁護や障がい者施策の研究、提言、障がい者問題の社会への啓発などを障がい者の視点から行うことにより、真の「共生社会」をめざしています。
 今回は、同団体が開講する障がい者向けパソコン教室「パソコンひろば平塚」のことを中⼼に、同団体職員の椎野さん、ならびにボランティア講師の三澤さんにお話を伺いました。

KILC職員・椎野さん、ボランティア講師・三澤さん、さん 顔写真
KILC職員・椎野さん(中央)とボランティア講師・三澤さん(右)、堀内さん(左)

まず団体についてのご紹介をお願いします。

椎野さん:当法人は、厚木事業所と平塚事業所(キルクももはま)のほか、地域活動支援センター・こぶしがあります。
 法人本部は厚木事業所内にあり、相談事業、理解促進事業(普及啓発事業)、権利擁護事業などを行っています。厚木事業所では視覚障害者の職員も働いています。ICT機器の使用にあたっては、職員自身が、使いやすい環境を整えて業務を行っています。
 平塚事業所(キルクももはま)は、平成18年10月より、障害者自立支援法に基づき、就労継続支援(B型)の指定事業所となりました。
 「パソコンひろば平塚」は、平塚事業所(キルクももはま)で開講しています。

パソコン教室「パソコンひろば平塚」について

パソコン教室を立ち上げた経緯、パソコン教室の概要をお聞かせください。

「パソコンひろば平塚」授業風景

「パソコンひろば平塚」授業風景

椎野さん:平成19年から22年までは、神奈川県社会福祉協議会の地域障害者IT利活用拠点運営事業として教室を開講していました。
 その後は単独事業として教室を開講しています。
 
 教室は事業所(キルクももはま)の一部を利用し、毎週火曜日(午後の時間帯・2部制)ならび金曜日(午前)に開講しています。
 ご利用人数は、開講日により異なりますが、直近1年間では延べ400~420名が受講しています。
 
 受講生の区分は、年会費をお支払い頂いている当団体の一般会員と当事業所の就労継続支援(B型)の利用者が半々程度です。毎回の受講料は、無料です。
 
 現在、ボランティア講師4名が学習指導をしています。事業開始時、パソコン普及団体(拠点:大磯)に講師依頼をしてから、継続して講師を依頼しています。4名の方の中には、開校当初から来ていただいている講師の方もいます。

 

受講生からは、どのような要望や質問が多いのでしょうか?

椎野さん:「電源の入れ方が分からない」という方や、「パソコンゲームがしたい」等、要望は多種多様です。基本的には、受講生がお持ちになったテキストを用いて学習しています。
 
 若年の方から年配の方まで、幅広い年齢の方が受講しています。中には、お子さんが特別支援学校に通っているお母様が「タブレットを使ってゲームをさせたい」とか、「将来パソコンを使う仕事をさせたい」と希望され、夏休み等の長期休暇中に親子でパソコン教室の見学に来られることもあります。
 

三澤さん:Wordの基本を覚えたいという要望が多いです。「文字を打ち込みたい」「小説を書きたいのでWordを使えるようになりたい」「基本はマスターしているが、ポスターを作成してみたい」等、目的は様々です。
 ポスター作成の際は、コメントの入れ方、全体のバランス等、見せ方を意識したアドバイスをしています。
 
 最近はインターネットの利用に関する要望も多く、調べたいことを列記して教室に来られる受講生もいます。
 ブログを開設している受講生から「ヒット数が少ないけれど、どうしたら良いか」という質問を受けたときは、マーケティングの専門知識を生かして、アドバイスをしています。

授業中、印象に残るエピソードや、講師として心掛けていることをお聞かせください。

三澤さん:授業内容はもとより、コミュニケーションに時間を掛けた受講生のことが印象に残っています。
 そのかたは脳性麻痺で、言語が不明瞭でしたので、始めのうちは、話している内容がなかなか聞き取れず、意思疎通の点において「困ったな」と思っていました。しかし、回を重ねるごとに理解できるようになりました。コミュニケーションが密になるにつれて、受講生は喜んでくれて、パソコンスキルも上達しました。
 
 受講生の希望を叶えてあげることが自分の役目です。「パソコンひろば平塚」は、受講生にとって、色々な面においてのきっかけになれば良いと思います。
 「パソコンでこんなことができるようになったよ」ということがあれば、自信を持つことができます。
 普段、受講生が一番興味があることを学べるように、そこにプラスアルファの要素を加えて、「パソコンひろば平塚に来てよかったなぁ」と感じて帰ってもらえるような授業を行うように心掛けています。
 

今後の展望

「パソコンひろば平塚」の今後の展望について、お聞かせいただけますか。

椎野さん:「パソコンひろば平塚」は、<皆が必要で、皆が望んでいる>とてもニーズの高い事業だと思っています。
 就労支援の一環として開講している教室ではなく、地元でパソコンを習いたいという思いがありながら、通学環境や教室設備の問題等のほか、学習についていくのが困難であったり、制約があって教室には通えなかったりする障がい者の方々にも対応しています。自分のペースで自分の目的に合った学びができる環境です。
 
 

「パソコンひろば平塚」 授業の様子

「パソコンひろば平塚」授業風景

  また就労継続支援(B型)の作業所では、パソコンを使った作業はあっても、パソコンを教えてくれる作業所はあまり聞いたことがありません。
 利用者さんは、まずパソコン操作を習得してから、例えば、名刺作成をする作業所や、チラシ作成をする作業所に通うというように、作業所は”その先にある”と思います。
  「パソコンひろば平塚」には、パソコン操作を習得できるカリキュラムがあります。
 就労支援という視点からも、その最初の部分を担っていきたいと考えています。

インタビューを終えて

 今回の取材中、和やかな中にも熱気あふれる授業風景を目にし、受講生のパソコン学習への意欲を肌で感じました。

 また、職員の椎野さんからは、”特別支援学校に通われている頃から「パソコンひろば平塚」で学び、現在、地域の就労支援(B型)の作業所で作業をしながら、学習を継続されている受講生がおられる”という印象深いお話を伺いました。

 パソコンの学習を通して、各々の夢や目標を持つことができる環境が整った「パソコンひろば平塚」は、障がい者の自己実現や社会参加への初めの一歩として、益々重要な拠点となっていくであろうと感じました。教室の今後の展開に期待しています。

取材先

特定非営利活動法人神奈川県障害者自立生活支援センタ平塚事業所(KILCももはま)

 

事業内容

●ピア・カウンセリング及び各種相談事業
●研修・社会啓発・普及・広報事業
●居宅介護派遣事業(ヒューマンネットワーク湘南)
●権利擁護事業  


Webサイト

http://www.kilc.org/
取材

2020年2月

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